



ヒルマ・アフ・クリント展(東京国立近代美術館)に行ってきました。
ヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)という画家の存在は、2017年に豊田市美術館で開催された「抽象の力」展での岡崎乾二郎によるレクチャーの際に紹介されたことで初めて知りました。20世紀初頭にカンディンスキーやモンドリアンなどに先んじてこのような抽象に到達したことや、その1940〜60年代のアメリカ抽象表現主義の大画面にも匹敵するスケール、そして1980年代以降のポストモダンのペインティングとも思えるような形態や色彩の感覚を持つ画家が、これまでほとんど知られることもないままに来て、近年忽然と我々の前に現れたことに大いに驚かされていましたので、今回の展覧会の開催をを心待ちにしていました。
本展はヒルマ・アフ・クリントの画業を網羅した展覧会ではありますが、やはりハイライトとなるのは縦3メートル以上もある大作の10連作「10の最大物」(1907)が展示された部屋です。
「10の最大物」が並んでいる部屋を何度も巡りながら、大きな謎が頭から離れませんでした。「これらの絵は一体どこから来たものなんだろうか?」・・・それは彼女が神秘主義的な儀式の中で霊感を得てこうした絵画の着想を得たことをあらかじめ知っていても、です。
人間の知覚を超えた世界の有り様を表現しようとした時、それはヒルマ・アフ・クリントにとっては、もはや現実的な形態によっては表現できず、抽象的な形を取らざるを得なかったことは容易に想像できます。ただ展覧会では、彼女の絵画を単なる神秘主義の産物として片付けて欲しくないためか、19世紀後半から20世紀初頭、彼女の同時代に起こった科学技術の発達(ニコラ・テスラの電流実験、キュリー夫妻の放射性元素の発見)や、深層心理(カール・グスタフ・ユング)、生物形態の博物学(エルンスト・ヘッケル)など、それまで見えなかったもの(力)や知られていなかったことを発見して可視化する一連の業績との影響関係の中でも捉えようとしていました。
でもそうしたことがわかっても、それまで存在したこともない新しい表現が誕生するためには、何か「大きな飛躍」があったはずです。その「飛躍」をもたらしたものは何なのか、そのこのような絵を産むための彼女の確信はどこから来たものなのか・・・。現物の絵画を前に、絵と同期してその謎の中に浸っていました。(Y.O.)