N先生のデッサン・デモンストレーション


現在、六角舎アートスクールは夏期講習のA日程が終了したところです。

夏期講習A日程の途中で、講師として指導していただいているN先生(京都市立芸大大学院在学中)にデッサンの描き出しの進め方についてデモンストレーションをやってもらいました。


モチーフは、京都市立芸大の2021年度入試の過去問題(リンゴ、玉ねぎ、紙袋、透明ケース)です。

このモチーフは、シンプルで一見取り組みやすそうに見えるのですが、いざ構成を考えてみるとなかなかしっくりくる組み合わせが得られません。

これはリンゴと玉ねぎ、紙袋と透明ケースの形やボリューム感が似ていること、紙袋や透明ケースの強度があまりないため扱いにくいことから来ています。

 

また構成を考える際は、モチーフ同士の組み合わせのみならず、モチーフと画面余白との関係も大切です。

 

夏期講習でも何人かの受講生に取り組んでもらいましたが、先生とあーでもないこーでもないと試行錯誤しながら時間をかけて構成を探りました。

 


1)

そんな中、N先生はモチーフの形や特性を素早く判断して時間をかけずに緊張感のある画面構成にたどり着きました。

具体的には、

 

●紙袋を捻ってシワを作り、描写のポイント(描きどころ)を演出しています。

●紙袋側面の強い陰影が出ている部分をよく見える場所に持ってくることで、紙袋の立体感が演出されています。

●紙袋を斜めに立てかけて造形的な動きを出しつつ、透明ケースとの間に空間的に魅力のある部分を演出しています。

●玉ねぎを透明ケースの中に入れることで、透明ケースの立体感(奥行き感)を演出しています。

●色の濃いリンゴを手前に持ってくることで、画面全体の前後感を演出しています。

●画面枠との緊張感のある関係を強く意識した構成になっています。

 


2)

描き始めです。

まず、画面の枠の中にどのようにモチーフが収まるのか、あらかじめ「あたり」を取った上で、モチーフ同士の関係を見ながら形をとっていきます。

輪郭線の段階で、大雑把な線ではなく、すでにモチーフの特徴を捉えた線が出ていますね。


3)

形がおおよそ取れた段階で陰影をつけていきます。この段階ですでにモチーフ下の影を描き始め、画面全体を空間的に捉えています。


4)

画面全体をみながらバランスよくタッチをのせていきます。N先生の進め方はリズミカルで、一時も手が止まることがありません。


5)

細部を描くときや強い筆圧で色を出すときは、羽箒を椀鎮がわりにして、手で画面を擦ってトーンを壊さないように工夫しています。


6)

ここまで描き始めてから1時間30分と少々です。

まだそれぞれのモチーフのトーンの調整や質感の表現、細部の描き込みはこれからですが、画面全体の空間のあり方がしっかり出ていて、このままバランスよく描き進めていけば自ずと完成していく様子が見える「良い途中」になっています。


今回はここまででしたが、画面全体の空間を見ながらバランスよく描き進めることが、デッサンの安定感にもつながり時間対応に関しても重要であることがわかるデモンストレーションでした。(Y.O.)