今、大阪のなんば御堂筋沿いにあるエスパス ルイ・ヴィトン大阪という新しいアートスペースで「ゲルハルト・リヒター/ABSTRAKT」展が開催されています。
ドイツの画家、ゲルハルト・リヒター(1932〜)は、その長いキャリアの中で様々なタイプの作品を描いていますが、その中でも抽象的なスタイルの作品が展示されているとのことで、先日観に行ってきました。
東京・表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京は、質の高い現代アートの展示を見ることができるスペースとして東京に行くたびに足を運んでいましたが、大阪にもそのようなスペースができたということで、リヒターの作品ともども楽しみにしていました。
ルイ・ヴィトンのビル5階にある広々としたスペースに、フォンダシオン ルイ・ヴィトンのコレクションから選ばれたリヒターの作品が、'80年代のものから近年のものまで、大作から中小規模のもの、そしてドローイングの小品など18点が展示されています。
エントランス部分からメインのホールに入ると、正面にカラフルな大作が目に飛び込んできます。
私はとりわけリヒターの'80年代の、カラフルで自由な筆致で描かれたこのスタイルの作品が好きで、260cm×400cmほどもあるこの作品も離れたり近寄ったりしながら長い時間楽しみました。その大胆かつ緻密な計算に基づいた筆致が生み出すおおらかな絵画空間に圧倒されながらも、リヒターがどのように絵の具を扱い空間を作っているのかを生々しく感じとることができました。これは本やカタログの図版やネットでの画像からは得られないものです。
その他、特に興味深かったのは2点のストライプの作品でした。
このタイプの作品は以前から図版では見ていて、ストライプの絵画を描く画家は他にもいるものの、リヒターのストライプの作品は色の選び方や線のシャープさとその組み合わせなどが独特の緊張感を放っています。そのことが単に即物的にストライプを構成した作品である以上に現代社会についてのメタファー的なものまでを感じさせる優れた作品だと思っていました。
実際に作品の前に立ってみると、ものすごい速度でストライプが脳を貫通してクラクラします。映像作品ではないので実際にはストライプは動いていないのに、です。こういうオプティカルな効果が身体に及ぼす影響までリヒターは計算して作品を構想したのだろうか?もしそうなら凄いことだな、と思いました。
いつもリヒターの作品を観るたびに感じられるのは、画面の中から発せられる決然とした感覚です。それはいわば、情緒的なものに流れることなく自分と空間を対峙させ、厳しく絵画を形作っていくこと。そして、そのことによって世界の(表現の)限界を指し示し、さらにそれを拡張しようとする意思からくるもののように思えます。
来年(2022年)は東京国立近代美術館と豊田市美術館で、近年の代表作であるという「ビルケナウ」の連作を中心とした大規模な回顧展が開催されるということなので、楽しみにしています。
エスパス ルイ・ヴィトン大阪での本展は、長い会期なので機会があれば足を運んでみてください。(Y.0.)
会期:2021年11月19日 - 2022年4月17日
開館時間:12:00-20:00
休館日はルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準じます。
入場無料
エスパス ルイ・ヴィトン大阪
542-0085
大阪市中央区心斎橋筋2-8-16
ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋 5F