ピピロッティ・リスト展『あなたの眼はわたしの島』(京都国立近代美術館)


スイスを拠点に活動する現代アーティスト、ピピロッティ・リストの回顧展『あなたの眼はわたしの島』が京都国立近代美術館で開催中です(6月20日まで)。

 

展示会場はカーテンなどによって緩やかに仕切られ、いくつかのスペースに分かれています。観客は靴を脱ぎ、カーペットの柔らかい感触を足裏に感じながらスペースからスペースへと移動します。

それぞれのスペースでは、ピピロッティがこれまでに制作してきた映像作品が壁や天井など空間内に投影されており、観客は床やベッドに寝転がったり、クッションやソファーにもたれたりしながら観ています。(一人の観客が立ち去った後は、会場の職員さんがその場所をスプレーで除菌していました。)水や空、植物、光、身体などの映像がオーバーラップしながらサウンドとともに映し出されていきます。

映像作品の中には、かつて同じく京都国立近代美術館で開催された『身体の夢』展(1999年)にピピロッティが出品していたものもあり、20年以上ぶりに再見しました。

 

映像イメージには、自然環境と身体との関わりや、身体と身体との関わりを喚起させるものが多く、また鑑賞方法も展示空間の中で観客たちがその空間を共有しながらある時間をともに過ごす、という感じで、このコロナ禍で人と自然、人と人が遠ざけられることを余儀なくされている現在、展覧会を観ながら、人と自然、人と人との距離が当然のように近いものであったときを思い出し、なにやらノスタルジーのようなものが胸中に湧き上がってきました。

 

展覧会場の出口前に、ピピロッティ自身が今回の展覧会について語る映像が流されていたのですが、それによると、今回のこの大規模な展覧会は、ピピロッティは展示のために来日することなく完全にリモートでの指示によって設営されたものなのだそうです。メイキング映像では、設営中の会場でピピロッティと現場スタッフが状況を確認しながらノートパソコン上でやり取りしつつ展示作業を進めている様子があり、かなり驚かされました。特に展示の最後の広いリビングルームの設営はかなり細かい指示が必要だったはずですが、アーティストの不在を感じさせないものになっていました。

このコロナの状況によって多くの展覧会が延期になる中、展覧会を作る新しい一つの可能性を示したとも言え、そうした意味でも(展覧会の内容とともに)ユニークなものになっているように思えました。(Y.O.)