私の選ぶ音楽の7日間・3日目

John Coltrane "Transition" 1965

1995年1月17日に起こった阪神大震災の当時、私は神戸・元町にあった美術予備校で働いていた。街も交通機関も壊滅して勤務先のビルも被災していたが、受験生たちが2月に受験を控えていることもあり、毎日その頃住んでいた枚方市から、バイク、バス、徒歩、タクシー、断片的に復旧した鉄道などを組み合わせて神戸まで通勤し授業をしていた。

 

同じビルの1階にジャズ喫茶があり、やはり被災していたが、マスターがこんな時だからと半ばヤケクソで営業していた。私は通勤だけで毎日往復6時間以上かかっていたので、授業後に帰る前に気合いを入れるために時々そのジャズ喫茶に寄ってコーヒーを飲んでから帰っていたが、ある晩にかかっていたのがこのコルトレーンの「トランジション」だった。

 

コルトレーンがこれを録音した時期は後のフリー期の直前だが、まだモード期の感じを残していて、ギリギリの状態でかろうじて形を保っているその過渡期的な表現に緊張感がある。
それを聴いている自分の日々めまぐるしく変化するハードな状況や、ジャズ喫茶の良いシステムで鳴らされていたこともあって、この「トランジション」がその時すごくリアリティーをもって響いてきたのを鮮明に覚えている。(Y.O.)