私の選ぶ音楽の7日間・7日目

Ry Cooder "Chávez Ravine" 2005

 

1950年代に権力によって破壊されてしまった、ロサンゼルスにかつてあったという「チャベス・ラヴィーン」というチカーノ・コミュニティー(メキシコ系住民のコミュニティー)をめぐる悲喜こもごもの人間模様を、セカンドライン、マリアッチ、テックスメックス、ルンバ、R&Bなどのリズムにのせた音楽絵巻として描いている。

伊達男、ダンス、車、マッカーシズム、謀略、金、喧嘩沙汰、ブルドーザー、そして破壊・・・。

聴きながら、紀州の「路地」をめぐる中上健次の一連の小説がオーバーラップしたが、経済成長や都市の発展の名の下での古いコミュニティーの破壊は、当時、世界中の至る所で起こったことなのだろう。

しかしライ・クーダーが21世紀にそのことをもう一度語ろうとしたのは、グローバル化された現在の世界の中で位相を変えて生じている同様の問題を喚起したかったからなのではないかと思われてならない。

 

アルバムの終わりの方で、かつてあった我が家を幻視しつつ「俺の家はドジャースタジアムの3塁あたりだ」とハワイアン・サウンドに乗せて歌う親父の歌声は、虐げられてそれでも生きていく人たちが醸す諦念とユーモアを見事に表現していていつも聴き入ってしまう。(Y.O.)