私の選ぶ本の7日間・7日目


「エレンディラ」 ガブリエル・ガルシア=マルケス著 鼓直・木村榮一訳(サンリオ文庫、1983/原著刊行 1972)

 

確か大学2年の時、顧問の潮江宏三先生と関根勢之介先生を囲んで様々な文学について語ろうという趣旨の自主ゼミが立ち上がるというので参加しました。週替わりで毎回誰かが1冊の本を紹介し、参加者は次の週までにその本を読み、当日それについて皆で語り合うというものでした。

 

全10数回のゼミの中で自分も含めて参加者がどんな本を紹介したのか、今ではほとんど覚えていません(M君がサリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」を、関根先生がコンクリート・ポエトリーを紹介してくれたことはかろうじて覚えています)が、先輩のDさんがこの「エレンディラ」を紹介してくれたことは、その後の私の人生にとって決定的な事件となりました。

 

ガルシア=マルケスは有名な「百年の孤独」や「族長の秋」、映画化された「予告された殺人の記録」や「コレラの時代の愛」などの長編小説で知られるコロンビア出身の作家ですが、この「エレンディラ」は比較的読みやすい7つの短編小説をまとめたものです。(「エレンディラ」は現在はちくま文庫から復刊されています。)

 

この短編集の最初の話は、「大きな翼のある、ひどく年老いた男」というタイトルです。主人公のペラーヨが長雨の中、家の中に入り込んできた大量のカニの死骸を浜に捨てに行った帰り、ぬかるみの中でもがく「大きな翼のある、ひどく年老いた男」を発見するというシーンから始まるのですが、この冒頭の短い文章だけでこのシーンの映像をありありと目に浮かばせるばかりか、雨季の熱帯林のムッとするような湿気とカニの死骸のむせ返るような磯臭さまでが小説の中から立ち昇って来るのに、びっくりしてしまいました。おそらく翻訳も良かったのだと思いますが、何より小説の持つイメージ喚起力をこれほどまでに感じたことはありませんでした。

 

そのことを契機に、このガルシア=マルケスを始めとする60年代にラテン・アメリカ諸国に現れた一群の小説家の作品を貪るように読み始めました。ボルヘス、ファン・ルルフォ、M.A.アストリアス、バルガス=リョサ、ドノソ、フエンテス、プイグ、そして何よりカルペンティエル・・・。これらの作家の作風は一般的に、現実と幻想が平然と混在した「魔術的リアリズム」が特徴であるとされています。それは単なる奇想ではなく、何よりラテン・アメリカの現在をリアルに描き出すための方法論だったと思いますが、同時に当時の世界の文学の状況を活性化させるパワーを持っていました。(サルマン・ラシュディ「真夜中の子供達」、中上健次「千年の愉楽」、大江健三郎「同時代ゲーム」などもこうした流れの中にあると理解しています。)

 

そして80年代の半ばごろ、これから自分の作品を本格的に作っていこうという段階にいた私は、こうしたラテン・アメリカ文学の方法が絵でできないか、と考えることから始めることになりました。(Y.O.)