卓上デッサンについて(その1)


私はデッサンが(自分で描くのも、ほかの人が描いたものを見るのも)好きです。静物、人物、風景など、時には絵の具を使って描かれた作品以上に対象にどのような態度で向き合い、洞察を得たのかをストレートに伝えるからです。

自分で描く場合、卓上の静物デッサンでは日常生活の中で使われる器具類や果実・野菜・食べ物などをモチーフにすることが多いですが、そのように普段何気なく接しているものを改めて観察してみることで、その中に実は様々な美しさが発見できることがわかります。さらには、デッサンに取り組み続けることによって人間の認識や表現力に関することなど様々な考察の深まりがあり、いくら描いてもこれで十分ということがありません。

美大受験では試験時間内で1枚のデッサンを仕上げなくてはならないという制約がありますが、そのためにも練習段階では少し時間をかけて取り組むことで、モチーフそのものやその組み合わせから美しさを見つけ、それをどのように表現すればいいのかということを身体的な情報として蓄積しておきたいです。

 

今回は、サツマイモとエビアンのペットボトルをモチーフに、大まかにデッサンの描きすすめ方を紹介します。


1)エビアン、サツマイモ、それぞれの特徴がよく伝わるような角度と、2点のモチーフの前後左右のバランスを考えながら配置します。(事前にモチーフを手にとってみて、重さや表面などの特徴をよく感じてみてください。)


2)配置したモチーフが画用紙の中でどのように見えるのかをデッサンスケール(デスケル)を通して確認します。特にモチーフの形とモチーフ以外の余白のバランスに注意してみましょう。

デスケルは入試では使えないことが多いのですが、教室での練習段階では構成感覚を鍛えるために積極的に使ってもらっています。特にモチーフの数が増えて構成が複雑になればなるほど役に立ってきます。


3)画用紙中央に画用紙を上下左右に4分割する線(十字線)を引きます。これはデスケル中央の十字線に対応しています。その線を手掛かりに画用紙にモチーフの形を大まかにスケッチします。


4)画面中におけるモチーフの大きさ、位置、バランス、モチーフ相互のプロポーション、二つのモチーフが机の上にちゃんと載っているように見えているか・・・などを確認して、大きな違和感を感じない場合はさらに精度を高めた線で細部をスケッチしていきます。


5)形が概ね出てきたら、モチーフの明暗と、立体を形作る面のあり方、そしてモチーフの固有色を大きく見ながら鉛筆のタッチを重ねていきます。


6)ベースになるタッチがある程度重なってきたら、大まかな明暗、面、固有色のあり方をふまえて、ボトルのロゴやサツマイモのデコボコした表面の感じなどの細部を描き進めます。(デッサン経験の多い人は、ボトルのロゴはもっと早い段階で描き始めてもいいと思います。)この段階ですでに影のトーンがある程度出ているところにも注目してください。


7)モチーフの質感や細部の表情などを丁寧に観察しながら、さらに描き込んで行きます。モチーフ同士の前後の関係を意識しながら、画面全体が同時進行するようにします。


8)サツマイモの皮の筋や表面のニュアンスばかりではなく、内部での成長の力が表面にどのように現れてきているか、しっかり身が詰まって重たい感じなども意識します。ペットボトルでは、表面の反射や写り込みを円筒形や半球状の面の上に載せていくとともに、透明な素材(プラスチック、水)を光が通ってくることによって生まれる様々な表情を、混乱しないように注意しながら描いていきます。


細部1)ペットボトル表面の入射光や反射光、周囲の状況が写り込んでいる様子、水を通して裏側の模様が透けて見えている様子などを、練りゴムとやや硬めの鉛筆を相互に使いながら丁寧に観察します。


細部2)ペットボトルの影のトーンも丁寧に観察します。また手前のサツマイモとの間にどれくらいの距離があるのかも意識します。


細部3)サツマイモは、鉛筆を細かく使ってタッチを重ねながら、小さな面の変化と微妙なトーンの変化を追いかけていきます。


9)影の表情を整えたり、画面の汚れなどを綺麗にして 一応の完成です。制作時間はのべ3時間と少々です。

 

描き上げたデッサンは少し距離を置いて見て、良い点、改善すべき点などを確認し、それを次回のデッサンへと繋げるようにしましょう。(Y.O.)