奈良美智展「君や僕にちょっと似ている」/横浜美術館

 

先日、横浜美術館で開催中(9/23まで。その後、青森、熊本に巡回)の奈良美智展に行ってきました。

僕は開館時間に少し遅れるくらいのタイミングで会場に入ったのですが、平日の午前中、それも雨降りの日にもかかわらず既にたくさんの観客が会場にいて、それもそのほとんどは若い女性です。今回の個展のタイトルは「君や僕にちょっと似ている・・・」というものでしたが、本当に、壁にかかっている絵画や置かれた彫刻に「ちょっと似た」たくさんの顔が、絵や彫刻を見つめていました。

 

 

今回の個展は、やはり何と言っても、巨大なブロンズ製の女の子たちの頭部の彫刻群が目玉だったのではないかと思います。
会場に入ってすぐの部屋、暗い中に浮かび上がるように、膨大な粘土の塊との格闘の跡が生々しく表面に残るかのような巨大な頭部が点在しています。マケットのような石膏の頭部もゴロゴロと隅の方に置かれています。そうした彫刻をじっくりと見ながら、凄くわくわくするとともに、単純に、「俺も作りてぇ〜」と、元・粘土少年、元・工作少年の血がメラメラと燃え盛ってきました。これもたくさんあった鉛筆によるドローイングなどを見ていてもそうなのですが、奈良氏の作品は、そういうもの作りへの源初的な欲望に火をつけるようなところがありますね。
ただその中で一番好きだったのは、巨大なブロンズの塊が林立する中、端の方に「考えるお姉さん」というタイトルの比較的小さな頭部があって、これが凄く格調高くて良かったです。

何点かあったキャンバスにアクリルで描かれた比較的大きめの絵画も、一見単色で平板に塗られているように見える女の子の顔の肌の部分など、じっくりと眺めているとかなり綿密なタッチや微妙な配色が見られます。また、うっすらと感じられる絵の具の層の状態から、何か決まったイメージがあらかじめあってそれを単純に描き出している訳ではないのだな、ということがわかります。やはり初めの部屋の彫刻群同様、現れてくる形とのやり取りをフィードバックさせながら描いているんだな、と思いました。そして観手としてはそうした細部を手がかりに画面全体を味わっていくことができるように思います。これは図版を見ただけではあまり良くわからなことですね。
そういう、単純な中にある複雑さ、あるいは、複雑なプロセスで描き進めながらも最終的にはシンプルに見えるようにまとめあげてしまう、ある飛躍・・・。そんなことを考えながら会場を行ったり来たりしていました。(Y.O.)

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2012年9月22日付けの投稿を転載したものです。)