中平卓馬「キリカエ」展/Six

 

大阪・心斎橋にある、コムデギャルソン大阪店のアートスペース「Six」で開催されている、中平卓馬「キリカエ」展を観に行ってきました。

中平卓馬氏のことは、60年代終わり頃の伝説的な「PROVOKE」の中心的なメンバーで、森山大道氏らとともに「アレ・ブレ・ボケ」が強烈な印象を残す写真を撮っていた写真家である、ということくらいしか知りませんでした。
クレー展を観に京都国立近代美術館に行った時に、この展覧会のフライヤー(ポスター)が置いてあって、そこに掲載されている写真に釘付けになってしまったのです。「これはすごいかもしれない。」

会場に行ってみると、Sixの壁面(右の面と正面)にB1版くらいの写真(縦長)が、印画紙そのままの状態で上下2段にずらりと、整然とピンで貼付けられていて壮観です。左側には、A4くらいの写真がこれも壁一面にびっしりと貼られています。

生け垣、庭石、寝ているおじさん、池の亀、植木、看板、藁葺き屋根、鴨、焚き火、猫、鉄塔、岩、銅像・・・などなど、普段皆が目にしていながら普通は絶対に写真作品などにはしないようなモチーフが、画面いっぱいに大きく写し込まれています。
ただ、何気ないモチーフながら、それは何でも良いわけではないようです。写されているモチーフのチョイスに傾向のようなものがあるからです。
それから、写し方にも傾向のようなものがあります。縦構図で、晴天で、順光で、縦長のモチーフはほぼ必ずと言っていいほど左に10度ほど傾いて写っています。それから縁のないプリントだというのも特徴だと思いました。

こうした、選ばれたモチーフの即物性、そして写し方の特徴からは、写真家が自分の写真から徹底的に情緒的なものを排除しようという強い意志を感じます。モチーフの「左に10度の傾き」も、写されたものから象徴性を排除する方法であるように思いました。
つまり、目の前にある光とモチーフ表面の質感の有様、そのままの姿を、写真につきまとう(そして視覚そのものに宿命的にまとわりつく)「物語性」「情緒性」「象徴性」「記号性」などを徹底的に排除し、純粋な視覚そのものとして提示しようとしているのではないか、ということです。
撮られ、提示されているモチーフはあまりにのほほんとしたものばかりで、はじめは唖然とさせられるのですが、じっくり見ていくと、これらの写真は、言葉の正しい意味で恐ろしくラディカル(革新的/根底的)な問題を突きつけているということに気付くのです。

ただ、近代絵画ではセザンヌがこうした問題意識を持っていたと僕は思いますし、僕たちが普段やっているデッサンも、同じ問題意識の線上にあります。そうした意味では、この展覧会は、写真のみならずビジュアルアーツに関わる人は必見のものではないかと思いました。(Y.O.)

中平卓馬「キリカエ」
会場=Six
会期=2011年3月19日(土)〜5月29日(日) 月休(月曜が祝日の時には営業)
開廊時間=12:00〜19:00
住所=大阪市中央区南船場3-12-22心斎橋フジビル2F
(地下鉄御堂筋線心斎橋1出口徒歩2分、コム デ ギャルソン大阪店2階)
電話=06-6258-3315
入場無料

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2011年5月18日付けの投稿を転載したものです。)