金沢美術工芸大学オープンキャンパス/金沢21世紀美術館「アイ・チョー・クリスティンー寓意と霊性」展・「起点としての80年代」展

7月15日、金沢美術工芸大学のオープンキャンパスに行ってきました。

(兼六園の近くに車を駐め、歩いて20分くらいのところにある金沢美工大を目指しましたが、行ってみると校庭に車が停められるようになっていました。)

 

玄関で受付を済ませた後、校舎の中に点在しているそれぞれの学科の展示スペースを案内マップを手掛かりに回っていきます。

油画、彫刻、視覚・製品・環境の各デザイン科、日本画、鍛金、鋳金、陶磁器、芸術学の各制作室や教室を見学しました。

各制作室では、学生の制作した作品や入試の合格作例などが展示されているほか、一部の制作室では学生が制作風景を公開していたり、金沢志望の見学者が持ち込んだデッサンを担当の学生が熱心に講評していたり、体験制作の部屋で参加者が制作していたりなど、どこも賑わっていました。

 

油画の石膏室や彫刻や工芸科の工房、デザイン科の材料加工室なども見せてもらいましたが、いかにも「仕事場」という感じの無骨で使い込まれた佇まいが、学生たちが制作に打ち込む姿を生々しく伝えていました。

受験予備校の指導者としては、入試の合格作例の展示が気になるわけですが、印刷物やネット上ではなく実際のものが目の前にあるといろいろなことがよくわかり、今後の指導に大変役立ちます。

 

前任校で教えていた元・生徒さんが何人か金沢美工大に在学中なので、もしかしたら顔が見れるかな?と思って行ったのですが、一人だけ会うことができました。元気に楽しく学生生活を過ごしているとのことで、嬉しかったです。


金沢美工大のオープンキャンパスをじっくり見学した後、金沢21世紀美術館で開催中の「アイ・チョー・クリスティンー寓意と霊性」展と「起点としての80年代」展を観るために兼六園の方向へ戻りました。

 

金沢21世紀美術館は、SANAA妹島和世西沢立衛による建築家ユニット)の代表作として有名な建築ですが、実は実際にみるのは初めてです。

大小の箱状の展示室などをサークル状の形態にまとめたシンプルな(かつ複雑な空間を内包する)建物です。外周の壁はガラスで仕切られることで内部と外部の境界が曖昧になっているうえ、建物を取り囲む周囲の芝生や内部の無料入館スペースも大きな面積を取っているので、非常に開放的な雰囲気の美術館と言えます。立地的にも重要な観光スポットが密集する中にあり、たくさんの人が美術館の内外を賑やかに行き交っています。

現代美術という、まだまだ一般の人々に敷居の高いイメージを持たれている作品を展示するスペースとして、そうした敷居を取り払う大胆なコンセプトのもとにデザインされたユニークな美術館だと今更ながら思いました。

 

事前にネット上で、休日はすごく混み合っている上にチケット売り場で長蛇の列になる、と書いているのを読んでいたので、前日にコンビニで共通鑑賞券を購入していたのですが、大正解でした。


アイ・チョー・クリスティンはインドネシア出身の画家で、ペインタリーな筆致が形態を解体していくかのような、カラフルな色彩の乱舞する大画面の絵画を楽しむことができました。特に最新作や近年の作品が並ぶ第1室と第2室が見応えがあり、そういう意味では発展途中の勢いのある画家だな、と感じました。

 

「起点としての80年代」展は、私も学生時代を過ごし作品を発表し始めたころ、関西や東京のアートシーンを賑わせていた作家の懐かしい作品にたくさん再会することができました。多くの作品は、80年代にリアルタイムで実際の展示を観ていますし、そうでなくても当時、美術雑誌などで紹介された際の図版などで見て知っている作品ばかりです。

ただ、展覧会のカタログの中で館長の島敦彦が書いているように、この展覧会は「何よりも開催館の担当者が今日的な視点から80年代を逆照射し、編み直した」ものであるとしたら、これは「懐かしい」展覧会ではなく、80年代に制作された作品たちそれぞれが、今もアクチュアルな力を持ち続けているかどうかを検証すべき展覧会だろうと思います。

 

そういう展覧会として捉えた場合、個人に一室が与えられ効果的な展示がなされてた岡崎乾二郎の「あかさかみつけ」のシリーズや宮島達男のデジタルカウンターの作品、藤本由紀夫のオルゴールの作品に比べ、他の作家の作品は大部屋に数点ずつがまとめて展示されており総花的な印象で、なかなかそれぞれの作品の質が見えてきにくいのではないかと思いました。(80年代関西アートシーンの登竜門的な存在であった兵庫県立近代美術館の「アートナウ」の展示会場を彷彿とさせました。)まあ、これは展示会場の制限もあり難しい問題なのでしょうが・・・。

 

展覧会のカタログはハードカバーのしっかりした作りで、当時の展示風景などの貴重な写真が綺麗な画像で掲載されていたり、80年代に批評やキュレーションなどでアートシーンに関わっていた執筆者たちによる回顧的な考察が読め、資料的な価値が高いと思います。ただその中で、本展に収まり切らなかった作家やムーブメントへの視点が多少はフォローされているものの、(展示空間に限りがあるのならば、なおさら)もう少ししっかりと紙幅をとって記録・考察がなされても良かったのではないかとは思いました。

 

今年秋には、大阪の国立国際美術館で80年代の日本の現代美術にフォーカスした展覧会が開かれるとのことです。そちらの方はどのような展示になるのか楽しみです。


写真のラスト2枚は、21世紀美術館の常設展示のレアンドロ・エルリッヒのプールの作品と、ジェイムズ・タレルの部屋から見た夏の空の色です。

 

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車で金沢日帰り往復はなかなかスケジュールがハードで、兼六園も久しぶりに行きたかったし、近江町市場も行ってみたかったのですが今回は断念。また次回に。(Y.O.)