イタリア美術紀行ーローマ編・その2(ヴァチカン美術館)

 

9月23日、開館時間の9時に間に合うようにヴァチカン美術館にバスで向かいました。サン・ピエトロ聖堂の前で降りて美術館の入り口に向かうと、すでに入館を待つ人々の長蛇の列が出来ていました。なぜこんなに入館待ちの列が出来るのかというと、入場者が多いのはもちろんなのですが、その入場者を空港のセキュリティチェック並みの検査をしてから入場させているからです。(今回の旅行では、ウフィツィ美術館でも同様のセキュリティチェックがありました。)結局入館できるまでに1時間くらいかかりましたが、予約していなかったのに1時間待ちですんで良かったと思いました。

ヴァチカン美術館は、絵画館以外にも、ギリシア・ローマの遺物のセクションや古代文明のセクション、近・現代絵画のセクションなどもあり、膨大なコレクションを誇っています。そしてそれに加えてラファエロたちの手がけた壁画のある部屋や、システィーナ礼拝堂があります。

 

 

まずは絵画館から。ラファエロやレオナルド、カラヴァッジオなどの有名な作品が目立ってはいますが、一方、カルロ・クリヴェッリやピントリッキオなどの意外な作品がこっそりとあり、「おっ!」と思わされました。

 

 

彫刻のセクションでは、ラオコーンやベルベデーレのトルソなどが観客を集めています。ラオコーンは16世紀の始め頃ローマで出土の知らせを受けて教皇からミケランジェロが派遣されて購入したもの、ベルベデーレのトルソはミケランジェロに強い影響を与えた紀元前1世紀アポロニオスによる作品。
私はジャン・ロレンツオ・ベルニーニの天使像の粘土による試作が何体か並んでいるコーナーが興味深かったです。およそ350年もの時間を超えて、崩れかけた粘土や中の鉄芯が制作の過程を生々しく伝えているように思えました。

 

 

ギリシア・ローマ時代の遺物を集めたセクションでは、修復中の様子を見せてくれるスペースもありました。

 

 

さらにはエジプト文明や他の古代文明の遺物のコレクション、中世の宗教的な美術・工芸品を集めた部屋などを経て、ラファエロが手がけた「アテネの学堂」などのフレスコ画がある部屋にようやくたどり着きました。

 

 

そして近・現代の絵画や彫刻を展示したセクションを過ぎた後、クライマックスのシスティーナ礼拝堂です。
礼拝堂の天井と正面にミケランジェロによる巨大壁画が描かれています。天井には創世記をはじめとする旧約聖書をテーマとするフレスコ画がいっぱいに描かれ、正面には新約聖書の最後の審判をテーマとするフレスコ画が描かれています。
私はシスティーナ礼拝堂の壁画を観るのはこれで3回目です。1回目は天井が修復中だったので最後の審判(修復前)のみ、2回目は天井が綺麗になっていましたが最後の審判が修復中。そして今回初めて全部が綺麗になった状態で見ることができました。
(システィーナ礼拝堂内は撮影禁止のため、写真は撮っていません。)
堂内に溢れる人々の中で、首が痛くなるほどじっくりとミケランジェロの仕事を見つめて目の奥に焼き付けた後、閉館時間の6時に近くなったので礼拝堂を出ました。結局ほぼ8時間美術館内にいたことになります。
礼拝堂からは、まるで吐き出されるようにスルスルとサン・ピエトロ聖堂の入り口脇に出て来れますが、外に出たら、朝のいい天気が嘘のように雨が降っていました。

 

 

サン・ピエトロ聖堂に参詣し、その壮大な空間(ドームの設計はミケランジェロ、ブロンズ製の大天蓋はジャン・ロレンツォ・ベルニーニによるもの)や、中に安置されているミケランジェロの彫刻「ピエタ」を観たあと、外に出てもいっこうに雨脚が弱くなる気配がありません。思い切ってかなり離れたバス停まで雨の中を走り、バスでホテルに戻る事にしました。
本当は夕方からは、ザハ・ハディドのデザインした新しい国立21世紀美術館(MAXXI)にヴァチカンから向かい、帰りはまたローマを夜散歩しながらホテルに戻ろうと思っていたのですが、もうミケランジェロの仕事で締めくくった後は何も観なくていいや、という気分でした。

 

 

明日は朝一番でチェックアウトして空港に向かい、日本に帰るため飛行機に乗ります。これにて今回のイタリア美術紀行は終わりです。(Y.O)

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2015年10月29日付けの投稿を転載したものです。)