イタリア美術紀行ーアッシジ編

 

9月21日の夜、アレッツオから列車でアッシジに到着。31年ぶりの再訪です。
鉄道駅からバスに乗り、小高い山の上にあるアッシジの街に向かいます。バスの終着駅からホテルまでは少々距離があり、暗くなってしまった石畳の街路を重い荷物を引きずって歩かなくてはなりません。アッシジの街は、曲がりくねった細い路地や坂道ばかりで階段などもあり、たちまち自分がどこを歩いているのかわからなくなってしまいました。暗いので地図もよく見えず、(そもそも地図は平面なので)山の中腹に上下に道が積み重なっているこの街では、自分が歩いている道が地図上のどの道なのか実感がありません。しばらくのあいだ当てずっぽうに歩いていたら、偶然にホテルの前にたどり着くことができました。

翌朝、早く起きて夜明けのアッシジの街を散策しました。
聖フランチェスコ聖堂ではすでに早朝のミサが始まっています。聖堂前の広場では、聖フランチェスコさながらのつぎはぎだらけの糞掃衣(のような)を纏った独りの老人が、祈りを捧げながら膝で歩いて聖堂に向かっていっていました。アッシジは、清貧の聖人と呼ばれた聖フランチェスコが生まれ、キリストからの啓示を受けて修道士となった後の活動の拠点であり、そして亡くなった街です。彼の遺徳を偲ぶ人々が巡礼のためにやってきます。

 

 

朝食後、聖フランチェスコ聖堂に改めて参詣し、上部聖堂のジオットの聖フランチェスコの生涯を描いた一連の壁画を観ました。(近年、これはジオット作ではないという有力な説もあるようなのですが。)有名な、小鳥に説教する場面が入り口すぐのところにあります。28の場面が描かれた中で、私は「聖痕を受ける聖フランチェスコ」の場面が特に美しいと思いました。
(聖フランチェスコ聖堂内は撮影禁止のため、以下の堂内の写真や壁画の図版は、絵はがきなどからのものです。)

 

 

下部聖堂にはシモーネ・マルティーニによる大きな壁画がありますが、その脇にチマブーエによる聖母子像が描かれていました。(チマブーエによる壁画は上部聖堂にもありますが、痛みが激しくほとんど見えなくなってしまっています。)天使に囲まれる聖母子の隣には聖フランチェスコが立っています。一目見るや否や、このチマブーエの絵の放つ強いパワーに圧倒されてしまって、しばらくのあいだ目が離せなくなってしまいました。

 

 

昼すぎまでアッシジを散策した後、鈍行列車に乗っていよいよローマへと向かいます。(Y.O)

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2015年10月27日付けの投稿を転載したものです。)