イタリア美術紀行ーシエナ編

 

9月21日、早朝フィレンツェを発ちシエナに向かいました。フィレンツェからは急行バスで1時間半ほどの道のりです。

 

 

今回の旅行は非常に限られた日程だったのですが、シエナには是非行きたかったのです。31年前の旅行の折にも立ち寄ったことがあるのですが、そのときにはあまりピンと来ていなかったシエナ派の絵画が年を経るごとにだんだんと好きになって来たからです。シエナの街そのもののように中世の香りを濃厚に残す、瞑想的なシエナ派の絵画を国立絵画館と市庁舎内の美術館で概観しました。

 

 

市庁舎内に描かれたシモーネ・マルティーニのフレスコ画「マエスタ(荘厳の聖母)」は、師匠のドゥッチオの「マエスタ」を踏まえたものですが、確かに師匠の作より華麗で新しい感覚があります。
『聖母の都市シエナー中世イタリアの都市国家と美術』(石鍋真澄著/吉川弘文館)の中ではドゥッチョとシモーネ・マルティーニを次のように比較しています。
『つまるところ、ドゥッチョがイタロ・ビザンティン絵画を克服してシエナ派絵画を確立した、「イコン画家」という性格をのこした地方的画家だったのに対し、シモーネ・マルティーニは様式、図像、技法などさまざまな点で新しい要求にこたえた、いわば「新時代の画家」であり、シエナ派絵画を広くヨーロッパに広める役割をはたしたのである。』
ただ、シエナに来る前にはフィレンツェのウフィツィ美術館でドゥッチョの代表作の巨大イコンに感銘を受けていました。シエナでシモーネ・マルティーニを観ながら、師匠の絵のもつ「重厚さ、深さ」と弟子の絵の「華麗さ、軽やかさ」の間にある表現の幅の大きさにシエナ派絵画の懐の広さを感じた次第。

 

 

それにしても、トスカーナの風景は本当に美しいですね。国立絵画館の窓からや、市庁舎の展望テラスから見渡した赤茶色の(バーントシェンナの)瓦屋根の家々とその向こうに広がる空間を一日中、ずっとみていたい気持ちでした。(Y.O)

 

(この文章は、松尾美術研究室のブログ "マツオ・アートログ”への2015年10月25日付けの投稿を転載したものです。)